名盤 TEXTURES 『PHENOTYPE』レビュー (およびオススメの初期ジェント)

2017/03/06

アルバムレビュー その他/コラム



 2001年にオランダで結成されたTEXTURESというバンド、彼らはジェントの先駆け的存在です(PERIPHERYTESSERACTは彼らからの影響を公言)。が、他のジェントバンドと比べていま一つ存在感が薄いバンドでもあります。got-djent.comにおける人気投票ではフォロワーのバンド達に人気面でやや劣り気味ですし、メンバー全員がバンド活動以外の本業が忙しいなんて悲しい話も耳にします。偉大さの割に人気が伸び悩んでる原因としては、オランダ産ということでプロモーション面で不利な点や、若手ならではのフレッシュさに欠け、かつリリースペースが遅かった為ジェントブームの波に乗れなかった(苦笑)からではないかと推測しています。

 ところで、MESHUGGAHフォロワーという意味でのジェントと言えば、PERIPHERYが人気の火付け役なのは確かですが、実はそれ以前にも今回紹介するTEXTURESをはじめ、ジェントの潮流というモノは生まれていました。レビューに先立ってそれらしいバンドをいくつか紹介します。



TEXTURES 『Polaris』 (2004年、オランダ)
 
若さ迸る彼らのデビュー作。ジェント的リフだけでなく初期SOILWORK的なメロデスリフが多めの作品で、疾走メロデス好きにもオススメ。購入するなら10th Anniversary Editionをどうぞ。

TEXTURES 『Drawing Circles』 (2006年、
オランダ)
彼らの2ndアルバムで、彼らがジェントスタイルを確立したと言える作品。初期MESHUGGAHにDevin Townsendとフュージョン風味を足してキャッチーに仕上げた名盤。ハードコア色も強めで、メタルコアにも通じる部分がある音楽性。

COPROFAGO 『Genesis』 (2000年、
チリ)
MESHUGGAH, CYNIC, DEATH, PESTILENCE,およびフュージョンの影響が強めのバンド。無名なのがもったいない実力者ですが、作品は入手困難。
 
SIKTH 『The Trees Are Dead & Dried Out Wait For Something Wild』 (2003年、
イギリス)

メタルコアにも通ずる部分があるキャッチーなアヴァンギャルド・メタル(マスコア)。PERIPHERYに多大な影響を与えました。

DECAPITATED 『Organic Hallucinosis』 (2006年、ポーランド)

MESHUGGAHをブルデス寄りにした作風で、デスメタルファンの間では評価の非常に高い作品。ジェント扱いされる事は稀ですが、一応紹介。

KOBONG 『Chmury Nie Było』 (1997年、ポーランド)

1994年から1998年に活動していたエクスペリメタル・メタルバンドの2nd。他の曲ではPRIMUSやHELMETといったバンドを連想させる部分もあるのですが、とにかく謎の多いバンドです。入手困難。

 以上の様に、ジェントブーム到来の前からそれらしい音楽やっていたバンドは結構居ます。NEVERMORERAM-ZETATROXなんかもジェントかどうかは微妙ですが、MESHUGGAHに影響を受けたギターリフを用いていたりします。

 さて、今作紹介するのはその中でもTEXTURESの2016年作『PHENOTYPE』です。彼らはプログレッシヴ・メタルと呼ばれたり、ジェントと呼ばれたり、メタルコアと呼ばれたり、はたまたプログレッシヴ・メタルコアなんて呼ばれるコトもあります。当初は初期MESHUGGAHの影響を色濃く残していましたが、次第に独自色を強め、今作では脱MESHUGGAHがさらに進んでいます。今作はJochem Jacobsの脱退後、長いオーディションを経て新ギタリストのJoe Talが加入され制作されました。Joe Talのインスピレーション源はTOOL, GOJIRA, KARNIVOOL(オーストラリアのプログレ・バンド), AT THE GATES, 初期SEPULTURA, DEFTONESや、映画音楽やミニマル・ミュージック・・・とまぁ、とにかく色々な音楽だそうです。また、彼は今作をバンド史上初となる「完全なる民主主義的体制」で制作されたとも語っています。

 今作の音楽性を説明するなら、「MESHUGGAH+DEVINTOWNSEND+フュージョン」といった感じでしょうか。CYNICを彷彿とさせるパートもありますね。ギターリフは近年のMESHUGGAHよりは拍子のサイクルが単純かつメロディアスであり、なおかつこのバンドにしか出せない独特の"ウネり"を生み出しています。そのキャッチーさにはメタルコアに通じる部分も多いです。また、クリーンボイスパートだけでなく、デスボイスのヴォーカルラインひとつをとってみても、非常に"歌心"のある秀逸な旋律が多いです。個人的には、(EQUILIBRIUMといったバンドの様に)主旋律とデスボイスの旋律を同期させるのは好みではないので、こうしたバンドはとても好きです。

 私が思う今作の最大の魅力は、「情報量の多さ」です。ギターリフの引き出しの多さ、従来よりも存在感を増したリードギターやメロディアスなギターソロ、
リズム構成の"調度良いレベルでの"複雑さ、デスボイスおよびクリーンボイスの歌メロの秀逸さ、および"アトモスフェリック"なキーボードなど、そうしたいくつものレイヤーから生み出される情報量はかなりのモノです。少なくとも、他のメタルコア作品やキーボードの所属していない多くのジェントバンドの作品よりはかなり多いほうでしょう。また、この作品は、「ジェント」の魅力と「メタルコア」の魅力が最良のバランスで提示されていると思います。脳が混乱するグルーヴを生み出すジェント。片やシンプルなブレイクダウンによる快感を生み出すメタルコア。いかにもなブレイクダウンパートは非常に少ないのですが、私個人の印象としては両者のバランスが非常に優れているように感じました。

 雑多な要素を多く取り込んだ作品というものは、一歩間違えるととっ散らかった印象を受けるものです。が、今作にそういった印象を受けないのは、単純な主旋律やリフの強力さと、彼らの作編曲能力の高さによるものだと思います。ドラマーのStef BroksはあのCYNICのメンバーと共にEXIVIOUSというフュージョン・メタルバンドで活動していますし、新加入のギタリストJoe Talはアムステルダムのミュージックアカデミー(Conservatrium Von Amsterdam)でジャズの博士号を取得しています。ヴォーカルのDaniel de Jonghも音楽学校に所属していた経験があります。「やはり"勉強した"人間による音楽は違うな」と素人ながらに感じます。
我ながら非常に権威主義的な考えでお恥ずかしいのですが・・・。

 アルバム全体を駆け抜ける切迫した勢いに関しても、あらゆるジェント/メタルコア作品群の中でも屈指のモノだと思います。唐突に始まるオープニングの大名曲「Oceans Collide」から抽象的なキーボードの旋律で〆る最終曲「Timeless」まで、直球の出だしから、ラスト2曲で一気に抽象的な雰囲気が嫌みなく増し、余韻を感じさせて終わるアルバム構成は完璧に近いです(この辺りのムードには続編『Genotype』の発売が来年に控えているという事も関係しているはず)。約44分という比較的短めの尺なのも◎。全編名曲ですし、私が今まで聴いてきた全てのメタルのアルバムの中でトップ100には入るかもしれないくらいのお気に入りです。


 シンプルかつキャッチーな部分と、抽象的かつやや理解に時間を要する細やかな仕掛けとの優れたバランスにより、インパクト十分かつ聴けば聴くほど深みが出る作品だと言えます。ジェントに興味が無い方も手に取って欲しい・・・というか、むしろジェント的要素をそこまで期待しないで聴いてほしい名盤です(ジェント好きには3rd『Silhouettes』がオススメですが、そこまで一般的評価の高く無い4th『Dualism』も個人的には超名盤です)。以下の2曲がこのアルバムの雰囲気を感じられる好例かと思います。ご参考までに。



 また、上記の二曲はStef Broks本人による演奏動画も公開されています。とても参考になりますね。



参考文献
http://sin23ou.heavy.jp/?p=6514 (日本語)
http://gekirock.com/interview/2011/09/textures.php (日本語)
http://echoesanddust.com/2016/01/interview-daniel-de-jongh-from-textures/
http://powerofmetal.dk/2016/02/interview-with-guitarist-joe-tal-of-textures/



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