KILLSWITCH ENGAGE 全作レビュー (オススメの名盤&名曲紹介) (2017/04/04更新)

2017/04/04

アルバムレビュー


 
 2000年代のメタルコア(メロディック・メタルコア)シ-ンの立役者、KILLSWITCH ENGAGE。北欧の叙情的なメロディック・デス・メタルと硬質でアグレッシブなニュースクールハードコアを掛け合わせた音楽性ですが、単なる足し算に留まらない音楽性を生み出した実力者です。IN FLAMESやSOILWORKと並んで、デスボイスとクリーンボイスの使い分けを世に広めたバンドの一つでもあります。細かい来歴は、Wikipediaページがなかなか詳細なので、そちら参照して下さい。

 中心人物のアダム・デュトキエヴィッチは、ギター、サイドヴォーカル、作曲、プロデュースその他を担当しています(他のメンバーもリフ作り等には参加しています)。彼は名門バークリー音楽院でプロデュース業と録音(とベースギター)を専攻していただけあって、他の有名メタルコアバンドのプロデュースを数多く手がけています。彼が居なければメタルコアの隆盛は無かったといっても過言ではありません。

 このバンドはヴォーカリストとアダムの多才さが語られがちとはいえ、他のメンバーも才人揃い。ギターのジョエル・ストレッツェルはバークリー音楽院に在籍しており(のちに中退)、作曲面ではかなり貢献しています。彼らの楽曲は基本的に、各々がバラバラにパートを作って、それを後から纏めるという手法で曲を作り上げるらしいですが、スラッシュ風のリフはジョエル作のものが多いらしいです。3rd以降の作品でドラムを担当しているジャスティン・フォーリーは、名門Hartt School of Musicで打楽器の修士号を取得している実力者で、派手さは無いものの楽曲に合った丁寧なフレージングが魅力のドラマーです(ジョン・ボーナム、ニール・パート、ショーン・レイナートらに特に影響を受けているそうです)。ベースのマイク・ダントニオは正規の音楽教育を受けているかは不明ですが、バンドのアルバムカバーやマーチャンダイズのデザインを手掛ける多彩な才能の持ち主です。演奏面に関して言うと、彼らはハイトーンボイスやド派手な速弾きギターソロや高速ドラミングを披露する事はほとんど無いのですが、各々の息のあった演奏による密着したグルーヴは凄まじく、作品を追うごとにその円熟味は増していると思います。演奏技術の全体的な水準がデスやプログレと比べて低めのメタルコア界にもSHADOWS FALLやUNEARTHといった技巧派は居ますが、バンド全体で見た総合力・まとまりの良さという点ではKILLSWITCH ENGAGEが抜きん出ている様に思います。

  KILLSWITCH ENGAGEには、ジェシー・リーチとハワード・ジョーンズの歴代で2人のメインヴォーカリストが居ますが、両者共にシンプルに歌が激ウマだと分かる圧倒的な歌唱力で、特に両者の声の太さには、エモい歌メロが苦手なメタラーをも引きつける求心力が十分にあります。また、メインヴォーカルとサイドヴォーカル(アダム)の両方がクリーンボイスをデスボイスを自在に使い分けられるため、とりわけ6枚目『Disarm The Descent』以降は、厚みのあるハモりを駆使した楽曲が増えています。また、多くのメロデス/メタルコア、およびフォーク/ヴァイキングメタルのバンドは、デスボイスのパートはギターリフのみが目立ちデスボイスのメロディがイマイチで、クリーンボイスのサビパートはギターが地味という欠点を抱えがちなのですが(個人的意見です)、彼らの楽曲にはそういった印象は受けません。

 さらに、多くのメタルコアバンドは、急激なテンポチェンジ、ブレイクダウンや、デスボイスとクリーンボイスの対比などの"性急さ"や"メリハリ"が魅力の根幹にあり、"大げさな緩急"こそあるものの"滑らかな起伏"が欠如しているバンドが多いです(そもそも、そういうバンドは最初からそういった音楽性を志向していないのでしょうし、彼らにしか出せない魅力はもちろんあります)。が、それとは対照的に、KILLSWITCH ENGAGEは曲展開の滑らかさが魅力の根幹にあると私は感じます。彼らのギターリフは、ニュースクール・ハードコア由来のノリの良さとゴリゴリ感を保持しつつ、そこへのメロディの乗せ方がとても秀逸です。この点は、多くのメタルコアバンドが「メロデス風リフとハードコア風リフ(ブレイクダウン含)のパートが分離し過ぎていている」という罠に陥りがちなのとは対照的です。また、彼らの楽曲にはギターソロが少ない代わりに、(J-POPで言うところの)Cメロ部分が、"ラストを盛り上げるために助走をする"かなり印象的なものが多いです。

 また、このバンドは稀に飛び出す変拍子の使い方が上手です。例えば、3rd『The End Of Heartache』収録の大名曲「When Darkness Falls」のイントロ~ヴァースでは「7+8」(8+7?)拍子を巧みにかつ自然に利用してリズム面でのフックを生み出しています。こういった作曲、および演奏面での細かな仕掛けによって聴き手に「かったるい」と感じさせない辺りが、このバンドが他のメタルコアバンドを圧倒している一因ではないかと思います。


 KILLSWITCH ENGAGEは(キーボードや急激なブレイクダウンパート等による)派手さではメタルコアバンドに劣るかもしれません。が、メロディや楽曲全体の構成美ではメタルコア界でトップクラスでしょう。歌メロや楽曲構成には、普遍的なポップ・ミュージックにも通ずるオーセンティックな魅力が溢れてますし、デスボイスに慣れていない方の入門編としても最適なのではないでしょうか。明確なキャッチーさと深みの両方を兼ね備えた稀有なバンドです。

以下、全作レビューを記載します。


Killswitch Engage (2000)
 デビュー作である本作は、楽曲の完成度や資金不足によるイマイチな録音など、まだまだ荒削り。世間的評価もアダム自身による評価も低く、よほどのファンではない限り、進んで聴く必要は無いと思います。とはいえ、ニュースクール・ハードコアのファンの中には、この荒々しさが好きという方もそれなりに居るようではありますが。一部の人気楽曲は2ndで再レコーディングされているので、そちらでも聴けます。まずは2ndから聴きましょう。

Alive or Just Breathing (2002)
 メロディック・メタルコアの元祖とも言える歴史的傑作。アダム自身もこの作品が最高傑作だと自負しています。エモーショナルな歌の旋律と、硬質なギターリフが見事なバランスで同居しています。ジェシー・リーチの歌声は現在に比べると線が細く、それが若さと繊細さに繋がっています。また、今作の楽曲および演奏は現在よりもニュースクール・ハードコア的なハネる質感がかなり強いです現在ギターを担当しているアダムがドラムを叩いており、彼のリズム感やタム回しが効果的に作用しています。

 この作品が特別たる所以。それは、「史上初のメロディック・メタルコア」である点や「楽曲の秀逸さ」だけでなく、「メタルコアがジャンルとして確立される前の試行錯誤」があるからだと私は考えます。現在はメタルコアと呼ばれる音楽の「定型」は出来上がりました。が、今作が発表された時点ではそういったものは少なくとも一般的に認知はされていなかったはず。その為、楽曲の曲調の多彩さに関しては他のアルバムに比べて群を抜いています。ワンパターンと言われがちな彼らですが、少なくとも今作に関してはそれは当てはまらないでしょう。私は初期衝動という精神論を音楽に安易に持ち出すのは好まないのですが、この作品にはその表現が当てはまると思います。ヤンチャさと繊細を感じさせつつも、楽曲のクオリティと幅広さが段違いです。

 3rd以降の作品と比べるとかなりハードコア色が強く、その点がメタラーにはやや馴染みづらいかもしれません。が、2000年代のメタルを代表する作品なのは間違いないので、メタル好きなら絶対に聴いてみてほしい名作です。


The End of Heartache (2004)
 ヴォーカルがハワード・ジョーンズに交代してからの3作目で、全米で50万枚以上を売り上げたヒット作。前作の若々しさやハードコア的な叙情性がやや薄まり、メロデス寄りの作風となりました。これには、ハワードと共にBLOOD HAS BEEN SHEDから加入した、ジャスティン・フォーリーの手数を絞ったタイトな演奏も影響しています。アダムの良く跳ねるハードコア的なドラミングよりもメタル寄りの重みのあるグルーヴを生み出しており、それが円熟味を感じさせる一員となっています。名手アンディ・スニープによるミキシングも秀逸で、デビューから三作目にして一気に演奏や楽曲から貫禄が感じられるようになりました。

 あまりにも前半に名曲が集中しすぎている為、後半の楽曲群がやや埋もれがちという現代のメタルのアルバムにありがちな欠点を抱えています。が、アップテンポな曲とスローな曲のバランスも良く、入門編としては最も適している名盤かと思います。



As Daylight Dies (2006)
 
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  前作と同じくヒットした4作目。基本的には前作と同路線ながらも、前作よりもリフの多様性を重視した作品らしく、「My Curse」のサザンロック風のブルージーなリフや、「Desperate Times」のポスト・メタル的なアトモスフェリックなリフ等、前作に無かった要素が散見しています。また、アダムのサイドヴォーカルがかなり存在感を増しており、ハワードとの掛け合いを楽しめます。1曲目「Daylight Dies」から静かに立ち上がっていき、歯切れの良い疾走曲「Reject Yourself」で終わる構成がとても秀逸で、アルバム全体の流れは彼らの作品中最も優れていると思います。

 それから、スペシャル・エディション収録のDIOの「Holy Diver」のカバーは、うまく現代風にアレンジされており素晴らしい出来栄え。メタルの曲を同じメタルバンドがカバーして、ここまで自然に自分の色を出せるのは流石です。同じくボートラの「This Fire」も素晴らしい名曲ですので、買うのならスペシャル・エディションを強くオススメします。ちなみに、アダムはドラムの録音について「変わった環境のスタジオで録音した為にドラムの音色の調整に苦労し、やや硬い音色に仕上がってしまった。」と述べています(個人的には結構気に入っている音色なのですが・・・)。
メロデス要素とハードコア要素のバランスが絶妙なリフ、効果的に挿入されたアルペジオ、さらにハワードとアダムのヴォーカルの掛け合いなど、彼らの魅力が詰まった大名曲。

彼らの楽曲の中でも特に人気の高い曲。PVバージョンは一部スクリームのパートがクリーンボイスに変更されており、CDに収録されているものとは異なります。

Killswitch Engage (2009)
 1stアルバムと同タイトルなのがややこしい5枚目。前作はアダムの歌声が目立つ作品でしたが、今作では全ての歌がハワードによるものです。アダムはこの作品について、共同プロデュースを行ったブライアン・オブライエンと息が合わなかっただけでなく、歌詞やハワードのヴォーカル・パフォーマンスに悔いが残り、キャリアの中で最も好きになれない作品だと語っています。個人的にも、今作の音作りは彼らの持っていた特別な空気感をやや損なっており、印象に残らない楽曲も多い様に感じます。

 とはいえ、外せない人気曲は収められており、ファンならば必聴でしょう。代表曲「Starting Over」、シンコペーションを効かせた変拍子リフが印象的な一曲目「Never Again」や、初期~中期のIN FLAMESを彷彿とさせつつも、イモ臭さを希薄にさせた様なリフの「A Light In A Darkened World」などが個人的なオススメです。ギターのジョエル・ストレッツェルによると「Never Again」のオープニング・リフは休符を用いたリフを好むアダムの作で、欧州メタル風かつ直線的な「A Light In A Darkened World」のジョエル作のリフの好例だそうです。また、アダムのリフはリズムやボイシング(参考)が優れており、ジョエルはスラッシュ風のリフを好む傾向があるそうです。

TIMES OF GRACE / The Hymn Of A Broken Man (2011)
 KILLSWITCH ENGAGEのアルバムではありませんが、ギターのアダムと(当時KILLSWITCH ENGAGEを脱退していた)元ヴォーカルのジェシーのユニットなので紹介します。ジェシーがヴォーカルと作詞を、アダムがそれ以外のほぼ全てを担当しています。ジェシーは「このアルバムにはもっとブルースとソウルを持ち込みたかった。この5~6年、僕のヴォーカルをよりソウルフルなものにしようと努力してきた。」と語っており、歌唱力が格段の成長を見せています。

 アルバム全体としては、かなり神秘的かつスピリチュアルな空気感が漂う作品となっています。この辺りは、キリスト教的な内容を多く歌うジェシーの歌詞とも関係しています。「The End of Eternity」「Until the End of Days」の様にポスト・メタル要素のある楽曲もあるなど、歌メロおよび歌唱法の質感やスローテンポの曲の多さと相まって生まれる"もったいぶった"世界観が鼻につく方も居るかもしれません(聴き始めの頃の私がそうでした)。が、この世界観に慣れると、なかなか他のメタルの作品には無い味わいが感じられてきます。神秘的な空気感を漂わせながらも、メタルコアの作品として成立する躍動感とキャッチーさがあり、何回かじっくり聴いて味わってほしい力作です。



Disarm the Descent (2013)
  ジェシー復帰後の今作は、従来よりもテンポが速めの曲が多く(ブラストビートも数曲で登場)、バラエティ豊かな楽曲が収められています。アダム本人も「従来よりファストかつアグレッシブな作品にした」と語っています。 実際、こうした作風は彼らのディスコグラフィ中今作のみで、激しめのメタルが好きな方の入門としては最適な作品でしょう。 個人的には、ハードコア由来のリフに対するメロディの乗せ方が従来と比較してさらに成熟し滑らかになっている様に感じます。ちなみに、ドラマーのジャスティンは、ドライブ感のある「New Awakening」(イントロはおそらく7+5拍子と捉えられる)が最も演奏して楽しく、「The Turning Point」が最も難しかった曲だと語っています。

今作収録曲の中で、アダム本人も特にお気に入りだという曲。メタルには珍しい和気あいあいとしたPVが好印象。

Incarnate (2016)
 
 「前作よりダークな作風にし、アトモスフィア(空気感)を重視した」とアダムが述べるように、後半に行くにつれ、TIMES OF GRACEの作品でも見られた暗くも美しい神秘性が目立つようになる作風です。また、前作と比較してニュースクール・ハードコア由来のゴリゴリとしたリフとスローテンポの楽曲が増えた印象を受けます。どの曲もハイクオリティですが、前半の楽曲の充実度は凄まじく、彼らの新たな代表曲となるであろう名曲が多数収められている秀作。

ジェシー曰く、「インディーロック/パンクの派生の様なリフが入っている。また、ハードコアのバイブスがある2ステップ風のサビがとても気に入っている。だそうです。3回あるサビはそれぞれバックのコーラスの有無やアレンジが違い、聴き手を飽きさせない工夫が施されています。

ジェシーが自分の出せる最も高い音域にチャレンジしたというダークな名曲。

前作の様なアグレッシブさが前面に出た曲。この曲でジェシーは、CANNIBAL CORPSEのジョージ・コープスグラインダー・フィッシャーを意識したというデスメタル的なスタッカートを用いています(難しかったので何度もリハーサルしたらしい)。

 こちらの記事(英文)では、アダム自身がアルバムをワーストからベストまで選んでいます。作品の完成度だけではなく、制作時の思い入れや、ライブ時の観客の盛り上がり等も重視して選んでいるようです。以下、ランキング。

01. 『Alive Or Just Breathing
02. The End Of Heartache
03. Disarm The Descent
04.
Incarnate

05. As Daylight Dies
06.
Killswitch Engage (2000年作) 

07. Killswitch Engage (2009年作) 

『As Daylight Dies』については「悪くはない作品だと思うが、もっと良い作品がある」と語っています。また、Incarnate』については、「(このインタビューが行われた時点では)発売直後で、まだ(その作品の曲を携えた)ライブをあまり行っていないから」というのが4位にした唯一の理由だそうです。

 一番の名作と呼ばれているのは『Alive Or Just Breathing』ですが、ハードコアに慣れていない方はThe End Of Heartache』、あるいはDisarm The Descent』が入門に最適だと思います。また、このバンドは音楽性に大きな変化が無く、コンスタントに良作を作り続けているタイプなので、1つの作品が気に入ったら他の作品も間違いなく気に入るでしょう(1stは微妙ですが・・・)。

 また、ジェシーによる『Incarnate』全曲解説(英文)も紹介しておきます。各曲の歌詞のテーマについて詳しく言及されているので、彼の世界観について理解を深めたいという方は必読の内容。


主な参考資料
http://gekirock.com/interview/2008/07/killswitch_engage_1_3.php(日本語)
http://gekirock.com/interview/2011/01/times_of_grace.php(日本語)
http://www.guitarmessenger.com/interviews/joel-stroetzel-interview-killswitch-engage/
http://www.rockeyez.com/interviews/int-killswitchengage-mikedantonio.html
http://bloody-disgusting.com/news/3226256/interview-chatting-basketball-disarm-the-descent-and-the-simpsons-with-killswitch-engages-justin-foley/
http://www.metalinjection.net/latest-news/killswitch-engage-frontman-jesse-leech-says-new-times-of-grace-is-coming