歴史的傑作の可能性大。 INSOMNIUM 『Winter's Gate』レビュー

2016/10/17

アルバムレビュー


 フィンランドのメロディック・デス・メタルバンドINSOMNIUMの7枚目のアルバムを紹介します。多くのメロデスバンドが路線変更する中、彼らのスタイルはとても貴重で、もはや"メロデスの代表格"と形容しても良い存在でしょう。とはいえ、今作は40分の曲のみのアルバムとかなり挑戦的な作風です。

 ベース&ヴォーカルのNiilo Sevänenによって書かれた物語『Winter's Gate』を具現化する目的で制作された本作。メンバーは当初、この物語を伝えるには20分程度で済むと想定していたそうですが、実際の作曲に取り掛かると40分に膨れ上がってしまったそうです。

 "Cold"なデス/ブラック風のリフを各メンバーが持ち寄り、それを結合するスタイルで作曲がスタートしました。メンバーは、「EMPEROR, EDGE OF SANITYの作品群とりわけ『Crimson』(中心人物のDan Swanöは本作のミキシングとマスタリングを担当)やOPETHなどを想起させる部分、および自分達が従来取り入れていなかったドゥーム的要素も取り込んでいる」 と語っています。また、「バンド史上、最もヘヴィからソフトな要素まで、また、プログレッシヴ、ブルータルな部分も盛り込んでいる」とも語っています。

 とはいえ、アルバム全体の印象は、そこまで上記の説明から想像される内容ではありません。彼らはあくまでも古き良きメロデスを体現するバンド。AT THE GATESやDARK TRANQUILLITYを想起させる"いかにも"な疾走パートこそ少ないものの、メロデス、およびフォーク/ヴァイキング風のフレーズなどが随所に顔を出します。とても起伏に富んでおります。また、Niiloは今作を「Cold and Dark」な世界観だと語っています。SWALLOW THE SUNに所属しているAleksi Munterによるシンセ・サウンドは、メンバー曰く「雪や凍った湖の香り」を表現する目的で導入されていおり、幻想的かつ寒冷なアトモスフィアが嫌みなく醸し出されています。

 個人的には、従来のINSOMNIUMはその特有の渋さが好みのバンドではありませんでした(あくまで数曲聴いた程度の印象ですが)。が、今作にはとても新鮮味を感じました。大曲ながら「あまり集中しなくても浸れるパート」と「美旋律を"聴かせる"パート」のバランスがとても秀逸だと思います。誤解を恐れずに言えば、「流し聴き用」としても用いることが出来るのでは無いでしょうか。印象的かつ多様な旋律が聴き手に負担を与えずに提示され続けますし、メロデス特有の「バッキングの地味さ」も他のB級メロデスバンドよりは希薄な様に感じます。初めて聴いた時のインパクトだけでなく、聴けば聴くほどこの凍てついた世界観に浸ることが出来る。多くのメタルファンに大変オススメ出来る傑作です。


 私がこのレビューを執筆してる時点で、Rate Your Music(海外の人気投票サイト)における点数は5点満点中3.79点と破格の高得点であり、海外での評価も高いです。今作が、いずれ"メタル史に残る傑作"と称される可能性は決して低くは無いはずです。少なくとも、停滞したメロデスというジャンルにおける金字塔になるのは間違いないでしょう。

 ちなみに、Niiloは「好きなバンドの音楽性が変わり過ぎて、自分好みじゃなくなるのには本当にイライラする。自分たちは新しいことには挑戦するが、INSOMNIUMとしての核は見失わないようにする。今後も、今までやってきた様式の音楽を作り続けようと思う。」(意訳)と語っています。この発言、昔ながらのメロデスを好む方々にとってはとても安心出来ることでしょう。


参考資料

https://ninecircles.co/2016/09/21/interview-insomniums-niilo-sevanen-on-winters-gate-their-collective-vision-and-communicating-an-epic-story/
 

このアルバムのいくつかのパートを聴くことも出来ます。パート4まであります。ちなみに、この動画からの引用部分はそれぞれ誰の発言か適当です。いいかげんで申し訳ない・・・。

 
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