
中心人物のアダム・デュトキエヴィッチは、ギター、サイドヴォーカル、作曲、プロデュースその他を担当しています(他のメンバーもリフ作り等には参加しています)。彼は名門バークリー音楽院でプロデュース業と録音(とベースギター)を専攻していただけあって、他の有名メタルコアバンドのプロデュースを数多く手がけています。彼が居なければメタルコアの隆盛は無かったといっても過言ではありません。
このバンドはヴォーカリストとアダムの多才さが語られがちとはいえ、他のメンバーも才人揃い。ギターのジョエル・ストレッツェルはバークリー音楽院に在籍しており(のちに中退)、作曲面ではかなり貢献しています。彼らの楽曲は基本的に、各々がバラバラにパートを作って、それを後から纏めるという手法で曲を作り上げるらしいですが、スラッシュ風のリフはジョエル作のものが多いらしいです。3rd以降の作品でドラムを担当しているジャスティン・フォーリーは、名門Hartt School of Musicで打楽器の修士号を取得している実力者で、派手さは無いものの楽曲に合った丁寧なフレージングが魅力のドラマーです(ジョン・ボーナム、ニール・パート、ショーン・レイナートらに特に影響を受けているそうです)。ベースのマイク・ダントニオは正規の音楽教育を受けているかは不明ですが、バンドのアルバムカバーやマーチャンダイズのデザインを手掛ける多彩な才能の持ち主です。演奏面に関して言うと、彼らはハイトーンボイスやド派手な速弾きギターソロや高速ドラミングを披露する事はほとんど無いのですが、各々の息のあった演奏による密着したグルーヴは凄まじく、作品を追うごとにその円熟味は増していると思います。演奏技術の全体的な水準がデスやプログレと比べて低めのメタルコア界にもSHADOWS FALLやUNEARTHといった技巧派は居ますが、バンド全体で見た総合力・まとまりの良さという点ではKILLSWITCH ENGAGEが抜きん出ている様に思います。
KILLSWITCH ENGAGEには、ジェシー・リーチとハワード・ジョーンズの歴代で2人のメインヴォーカリストが居ますが、両者共にシンプルに歌が激ウマだと分かる圧倒的な歌唱力で、特に両者の声の太さには、エモい歌メロが苦手なメタラーをも引きつける求心力が十分にあります。また、メインヴォーカルとサイドヴォーカル(アダム)の両方がクリーンボイスをデスボイスを自在に使い分けられるため、とりわけ6枚目『Disarm The Descent』以降は、厚みのあるハモりを駆使した楽曲が増えています。また、多くのメロデス/メタルコア、およびフォーク/ヴァイキングメタルのバンドは、デスボイスのパートはギターリフのみが目立ちデスボイスのメロディがイマイチで、クリーンボイスのサビパートはギターが地味という欠点を抱えがちなのですが(個人的意見です)、彼らの楽曲にはそういった印象は受けません。
さらに、多くのメタルコアバンドは、急激なテンポチェンジ、ブレイクダウンや、デスボイスとクリーンボイスの対比などの"性急さ"や"メリハリ"が魅力の根幹にあり、"大げさな緩急"こそあるものの"滑らかな起伏"が欠如しているバンドが多いです(そもそも、そういうバンドは最初からそういった音楽性を志向していないのでしょうし、彼らにしか出せない魅力はもちろんあります)。が、それとは対照的に、KILLSWITCH ENGAGEは曲展開の滑らかさが魅力の根幹にあると私は感じます。彼らのギターリフは、ニュースクール・ハードコア由来のノリの良さとゴリゴリ感を保持しつつ、そこへのメロディの乗せ方がとても秀逸です。この点は、多くのメタルコアバンドが「メロデス風リフとハードコア風リフ(ブレイクダウン含)のパートが分離し過ぎていている」という罠に陥りがちなのとは対照的です。また、彼らの楽曲にはギターソロが少ない代わりに、(J-POPで言うところの)Cメロ部分が、"ラストを盛り上げるために助走をする"かなり印象的なものが多いです。
また、このバンドは稀に飛び出す変拍子の使い方が上手です。例えば、3rd『The End Of Heartache』収録の大名曲「When Darkness Falls」のイントロ~ヴァースでは「7+8」(8+7?)拍子を巧みにかつ自然に利用してリズム面でのフックを生み出しています。こういった作曲、および演奏面での細かな仕掛けによって聴き手に「かったるい」と感じさせない辺りが、このバンドが他のメタルコアバンドを圧倒している一因ではないかと思います。
KILLSWITCH ENGAGEは、(キーボードや急激なブレイクダウンパート等による)派手さではメタルコアバンドに劣るかもしれません。が、メロディや楽曲全体の構成美ではメタルコア界でトップクラスでしょう。歌メロや楽曲構成には、普遍的なポップ・ミュージックにも通ずるオーセンティックな魅力が溢れてますし、デスボイスに慣れていない方の入門編としても最適なのではないでしょうか。明確なキャッチーさと深みの両方を兼ね備えた稀有なバンドです。
以下、全作レビューを記載します。
また、このバンドは稀に飛び出す変拍子の使い方が上手です。例えば、3rd『The End Of Heartache』収録の大名曲「When Darkness Falls」のイントロ~ヴァースでは「7+8」(8+7?)拍子を巧みにかつ自然に利用してリズム面でのフックを生み出しています。こういった作曲、および演奏面での細かな仕掛けによって聴き手に「かったるい」と感じさせない辺りが、このバンドが他のメタルコアバンドを圧倒している一因ではないかと思います。
KILLSWITCH ENGAGEは、(キーボードや急激なブレイクダウンパート等による)派手さではメタルコアバンドに劣るかもしれません。が、メロディや楽曲全体の構成美ではメタルコア界でトップクラスでしょう。歌メロや楽曲構成には、普遍的なポップ・ミュージックにも通ずるオーセンティックな魅力が溢れてますし、デスボイスに慣れていない方の入門編としても最適なのではないでしょうか。明確なキャッチーさと深みの両方を兼ね備えた稀有なバンドです。
以下、全作レビューを記載します。
Killswitch Engage (2000)
Alive or Just Breathing (2002)
この作品が特別たる所以。それは、「史上初のメロディック・メタルコア」である点や「楽曲の秀逸さ」だけでなく、「メタルコアがジャンルとして確立される前の試行錯誤感」があるからだと私は考えます。現在はメタルコアと呼ばれる音楽の「定型」は出来上がりました。が、今作が発表された時点ではそういったものは少なくとも一般的に認知はされていなかったはず。その為、楽曲の曲調の多彩さに関しては他のアルバムに比べて群を抜いています。ワンパターンと言われがちな彼らですが、少なくとも今作に関してはそれは当てはまらないでしょう。私は初期衝動という精神論を音楽に安易に持ち出すのは好まないのですが、この作品にはその表現が当てはまると思います。ヤンチャさと繊細を感じさせつつも、楽曲のクオリティと幅広さが段違いです。
3rd以降の作品と比べるとかなりハードコア色が強く、その点がメタラーにはやや馴染みづらいかもしれません。が、2000年代のメタルを代表する作品なのは間違いないので、メタル好きなら絶対に聴いてみてほしい名作です。
The End of Heartache (2004)
あまりにも前半に名曲が集中しすぎている為、後半の楽曲群がやや埋もれがちという現代のメタルのアルバムにありがちな欠点を抱えています。が、アップテンポな曲とスローな曲のバランスも良く、入門編としては最も適している名盤かと思います。
Killswitch Engage (2009)
とはいえ、外せない人気曲は収められており、ファンならば必聴でしょう。代表曲「Starting Over」、シンコペーションを効かせた変拍子リフが印象的な一曲目「Never Again」や、初期~中期のIN FLAMESを彷彿とさせつつも、イモ臭さを希薄にさせた様なリフの「A Light In A Darkened World」などが個人的なオススメです。ギターのジョエル・ストレッツェルによると「Never Again」のオープニング・リフは休符を用いたリフを好むアダムの作で、欧州メタル風かつ直線的な「A Light In A Darkened World」のジョエル作のリフの好例だそうです。また、アダムのリフはリズムやボイシング(参考)が優れており、ジョエルはスラッシュ風のリフを好む傾向があるそうです。
TIMES OF GRACE / The Hymn Of A Broken Man (2011)
アルバム全体としては、かなり神秘的かつスピリチュアルな空気感が漂う作品となっています。この辺りは、キリスト教的な内容を多く歌うジェシーの歌詞とも関係しています。「The End of Eternity」「Until the End of Days」の様にポスト・メタル要素のある楽曲もあるなど、歌メロおよび歌唱法の質感やスローテンポの曲の多さと相まって生まれる"もったいぶった"世界観が鼻につく方も居るかもしれません(聴き始めの頃の私がそうでした)。が、この世界観に慣れると、なかなか他のメタルの作品には無い味わいが感じられてきます。神秘的な空気感を漂わせながらも、メタルコアの作品として成立する躍動感とキャッチーさがあり、何回かじっくり聴いて味わってほしい力作です。
Disarm the Descent (2013)
こちらの記事(英文)では、アダム自身がアルバムをワーストからベストまで選んでいます。作品の完成度だけではなく、制作時の思い入れや、ライブ時の観客の盛り上がり等も重視して選んでいるようです。以下、ランキング。
01. 『Alive Or Just Breathing』
02. 『The End Of Heartache』
03. 『Disarm The Descent』
04. 『Incarnate』
05. 『As Daylight Dies』
06. 『Killswitch Engage』 (2000年作)
07. 『Killswitch Engage』 (2009年作)
『As Daylight Dies』については「悪くはない作品だと思うが、もっと良い作品がある」と語っています。また、『Incarnate』については、「(このインタビューが行われた時点では)発売直後で、まだ(その作品の曲を携えた)ライブをあまり行っていないから」というのが4位にした唯一の理由だそうです。
一番の名作と呼ばれているのは『Alive Or Just Breathing』ですが、ハードコアに慣れていない方は『The End Of Heartache』、あるいは『Disarm The Descent』が入門に最適だと思います。また、このバンドは音楽性に大きな変化が無く、コンスタントに良作を作り続けているタイプなので、1つの作品が気に入ったら他の作品も間違いなく気に入るでしょう(1stは微妙ですが・・・)。
また、ジェシーによる『Incarnate』全曲解説(英文)も紹介しておきます。各曲の歌詞のテーマについて詳しく言及されているので、彼の世界観について理解を深めたいという方は必読の内容。
主な参考資料
http://gekirock.com/interview/2008/07/killswitch_engage_1_3.php(日本語)
http://gekirock.com/interview/2011/01/times_of_grace.php(日本語)
http://www.guitarmessenger.com/interviews/joel-stroetzel-interview-killswitch-engage/
http://www.rockeyez.com/interviews/int-killswitchengage-mikedantonio.html
http://bloody-disgusting.com/news/3226256/interview-chatting-basketball-disarm-the-descent-and-the-simpsons-with-killswitch-engages-justin-foley/
http://www.metalinjection.net/latest-news/killswitch-engage-frontman-jesse-leech-says-new-times-of-grace-is-coming